2023年のふり返り

エッセイ

2023年12月31日の22時半、もうすでに2023年も残り1時間半という段になって、ふと思い立ったので一年を振り返ることにした。以下、今年やったことのざっくりした記録だ。

2023年の言及可能タイトル

今年もゲーム翻訳では言及できる仕事、できない仕事などあれこれ手がけてきた。2023年において筆者が翻訳担当した、クレジット掲載のあるプロとしての言及可能実績のうち、主なタイトルは以下の通り。

Cassette Beasts

4月27日にリリースされたオープンワールドRPG。架け橋ゲームズさんからご打診いただき、筆者がモンスター名やわざ名、メインストーリーなど約6〜7万ワード、Toyochi氏(Xアカウント)がNPCの会話文やアイテム名、U Iなど約1万5千ワードの翻訳を担当した案件。LQAは2人で行った。僭越ながらリード翻訳者を務めさせていただいたため、全体のテイストや改行位置などの監修は筆者が調整している。なおDLCについては全編筆者が翻訳とLQAを担当した。

「モンスター名は音をそのままカタカナで訳すのではなく、元ネタやダジャレがターゲット言語のプレイヤーにわかるようにしてほしい」というオファーがあったため、Traffikrabを「パイロンカツギ」、Velocirifleを「ピストラプトル」とするなど、頭をひねる必要があったのが大変ではあったが楽しかった。また、男女以外の性別を選べる仕様や性別を問わない恋愛要素など、セクシャルマイノリティにフレンドリーな作品だったため役割語の使用率に注意を払い、安易な役割語の使用はなるたけ避けたキャラ立てを心掛けた。

Horticular

Empires of the Undergrowthの開発を務めるSlug Discoがパブリッシングした1作で、不思議でお茶目なノームたちからの頼みで、荒廃してしまったガーデンを再生してゆくことになるガーデニングシミュレーター。Slug Discoから依頼をもらい、今年のBitSummitおよびTGSで展示&Steam上で公開されたデモ版の翻訳およびLQAを単独で手がけた。フォントの提案なども筆者から行なっている。

とにかく登場する生物種が多く、説明文も実際の生態や環境について詳しく説明したものが多かった作品。登場植物はほとんどが欧米でメジャーな園芸種のため、学名から種名を特定しつつ園芸品種としての俗名などもリサーチする必要があり、苦労はしたものの生物名の翻訳が得意な筆者としてはかなり楽しめた。細かいポイントとしては、動物を呼び寄せるために構築する必要のある「Habitat」を「ビオトープ」と訳したあたりか。これは、Habitatをそのまま「ハビタット」「生息地」「住まい」と訳しては自然環境を強く意識した本作の雰囲気にはそぐわないと判断したことによるもの。

Ecosystem

これもSlug Discoによりパブリッシングされた1作。水中に手ずから作り上げた環境に魚を誕生させ、その中で独自に進化、適応していく唯一無二の生態系を観察する生態系シミュレーション。TGSのSelected Indie 80に選出された作品で、最終的に入選は逃したものの、インディーゲーム開発者のピッチコンテスト「センス・オブ・ワンダーナイト 2023」ファイナリスト8組に残ったらしく、知った時はだいぶビックリした。Slug Discoから依頼を受け、全編の翻訳およびLQA、フォントの提案などを単独で手がけた。

今年一番手こずった案件。Slug Discoから受けた案件の例にもれず、生物や環境に対する知識や実在生物種名のリサーチ力が要求された作品だったのだが、本作の最難関はサンゴ類と水生植物類、そしてカイメン。サンゴとカイメンについてはネット上、書籍上のどちらにおいても資料がほぼないうえ、正式な和名と一般のアクアリウム愛好家・ダイバーの間でメジャーな呼び名が細かく異なるため調べるのに往生した。サンゴ関連文献を教えてくれたアクアリウム有識者の友人と、和名未定のカイメンの訳名決定のための取材に快く応じてくださった株式会社エウサピアの椿 玲未氏には深く感謝したい。

Backpack Battles

IndieArkから翻訳依頼をいただいた1作。依頼を受けた時点では全然知らなかったのだが、調べたら日本でめちゃくちゃ流行っているタイトルだと知り、気を引き締めて翻訳にかかった。翻訳とフォント提案を単独で手がけている。

翻訳内容としてはアイテム名とアイテムの効果説明文がほとんどなので、できる限り明快で誤解の少ない翻訳を心掛けた。とはいえ熱心な開発による頻繁なアップデートに翻訳側のチェックが追いつけないまま翻訳実装が入ることがしばしばあるため、翻訳ミスを発見した場合はゲーム公式Discordに報告してほしい。できる限り迅速に対応する。

そのほか

他にも何件か実績言及可能なタイトルがあるのだが、年末に調子を崩したせいで掲載許可のチェックが間に合わなかった。来年1月に報告できたらいいなと思う。

ゲーム翻訳勉強会「LEVEL UP!」運営

2022年の12月から発足したゲーム翻訳勉強会「LEVEL UP!」(Xアカウント)について、月1回開催をなんとか1年間継続して実行できた。共同主催の西墻さんおよび運営管理チームの皆さんのサポート、参加してくださったみなさんのおかげだ。来年も引き続き、ゲーム翻訳者および翻訳学習者、ゲーム翻訳に興味のある方へスキルアップおよび交流の機会を提供できれば幸いだ。

ゲーム翻訳者としての発信・交流

上記のゲーム翻訳勉強会とも合わせ、SNS上にとどまらず、IJETやJTF翻訳祭などにも出向いてゲーム翻訳者の実態や、ゲーム翻訳者の実績言及問題「TranslatorsInTheCredit」などについてさまざまな場所で発信を行った。海外のゲームローカライズコミュニティでの交流にも一歩踏み出し、多くを得られた。来年はゲーム翻訳もあくまで翻訳業界の一部であること、日本のゲーム翻訳コミュニティも世界の大きなゲームローカライズコミュニティの一部であることを意識しつつ動き、それぞれの間に情報や交流の流れを作れればいいなと思う。

また、今年もアドベントカレンダー「ゲームとことば」に参加できた。今年はそれほどブログ記事を書けなかったが、来年はもっと更新機会を増やせていけたらいいなと切に思う。まあ、これは毎年言ってるのだが……

文章練習会

ゲーム翻訳勉強会とは別に主催していたゲーム翻訳者向けの文章練習会は、筆者の不調により8月で活動が停止してしまった。継続して参加してくださっていた方の文章力には顕著な向上が見られていたこと、ゲーム翻訳者が日本語の文章技術を練習する場はあったほうがいいことを踏まえ、さまざまな改善を加えて来年は再始動を目指したい。

趣味など

趣味の創作においては、小説や絵など、これまでになく手を動かせた年だった。仕事や体調、メンタルの不調で頻繁にくたばっていたのでそれほど量は制作できていないのだが、来年は体調を整えてもっと制作を習慣化していく予定だ。

個人的ゲームオブザイヤー

これはもう完全にパラノマサイト一択。カメラや立ち絵、システムによる演出の妙もあるとはいえ、キャラクターのセリフを原動力にストーリーを進めるライティングの地力には脱帽せざるを得なかった。低予算の新規IPにも関わらず絶大な人気を誇っているのも納得の1作。全セリフ書き出して分析したいくらいである。
Switchでは2024年1月4日、Steamでは1月5日までセール中なので皆さん買いましょう。

総括

めちゃくちゃ高い山と奈落ぐらい深い谷を上下にマラソンしまくってたような一年だったな!
というのが個人的な印象だった。楽しくはあったものの疲弊も大きく、その反動で年末はきれいに心身をぶっ壊してずっと寝ていた(ゆっくり回復していく算段はつけてあるのでどうかご心配なさらず)。さまざまな経験と優先順位の取捨選択機会に迫られたおかげで、頭の整理が多少は進んだ年だったなと思う。来年は心身へのケアをかなり重点的に行いつつ、今思いついている新しい挑戦をどんどん試していきたい。

そういうわけで読者の皆様、2023年は大変お世話になりました。2024年も、どうぞよろしくお願いいたします。

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